2014年7月9日水曜日

エヴゲーニイ・シュワルツの「ありふれた奇跡」

業界の方々には常識かもしれませんが、 ロシア映画の字幕を起こしているサイトがあります。 

サイトはこちら、http://vvord.ru

モスフィルムの映画はYou Tubeの公式サイトで 無料でほとんど見られるのですが、字幕サイトを利用して、 さっそく"Обыкновенное чудо"(1978)を見てみました。 この映画の原作者は劇作家エヴゲーニイ・シュワルツ(1896~1958)の戯曲です。

戯曲のあらすじを紹介すると、いたずら好きの魔法使いが、かつて熊を人間に変身させた。 魔法使いはそのことをすっかり忘れていた(他にもいろいろなことをしているので、 ひとつひとつのことにあれこれ心を悩ますタイプでない)が、その人間に変身した熊くんが 魔法使いの家を訪ねてくる。「君は誰だっけ?」と聞く魔法使いに、熊くんは「熊です」と答える。 魔法使いの妻は、「あんた、生き物を好き放題にいたずらして、何て可哀そうな ことしてるのよ!」と魔法使いをしかる。すると、熊くんが「いいえ。怒らないでください。私は人間になって とても感謝しています」と言い、熊に戻るための魔法の解き方も聞いていると告げる。 魔法使いの妻がそれはどういう解き方なの?とたずねると、熊は「人間の恋人が現れて、キスをされると 熊に戻れるのです」と言う。魔法使いの妻は魔法使いに向かって、「あんた、また、なんでそんな 可哀そうなことするのよ!」と怒るが、魔法使いはいまいち気にしていない。 そうこうしているうちに、王女を連れた王様のご一行が魔法使いの住む村を訪れ、 その途中ではぐれてしまった王女が、それぞれの身分を知らないまま、熊くんと出会い、 恋に落ちてしまうという、なんともはやの展開になるのだが、やがて、自分が恋に落ちたことを 知る熊くんの絶望やいかに。

 しかし、この熊くんと王女を救う「ありふれた奇跡」(原題の直訳)が二人を待ち受けるのであった! それはなんでしょう? というあらすじの作品なのですが、映画で見ると何だか調子が外れている… コミカルな作品のはずなのに、魔法使い役のオレグ・ヤンコフスキイがむやみに怪しい。 原作ではちょっと抜けたおもろい人やけれど、画面で見ると妙に暗い。 そして、王様役はダネーリヤの映画でおなじみ、『不思議惑星キン・ザ・ザ』にも出演した エヴゲーニイ・レオーノフ(「クー」を連発していた背の低い丸こい身体の人)。 この映画では王様役で出演していますが、何の威厳もかもし出していません。 

そういうのが気になって、映画にはいまひとつはまらないのですが、 シュワルツはファンタスチカの劇作ではソ連時代随一という人で、他にも町を支配するドラゴンを 決闘で倒す伝説の勇者の話「ドラゴン」も大爆笑の作品。 ドラゴンは自分を伝説の勇者が倒しに来ると知っていて、ついにその勇者が目の前に現れるんだけど、 あの手この手を使って、決闘の日を引き延ばそうとしたり、脅かしたり、小細工がおもしろい。 

ボリス・ストルガツキイは 自分が編集長を務めたSF専門誌"Полдень. XXI век"の創刊号の巻頭言で この雑誌ではファンタスチカを幅広く取るとして、ヴェルヌからゴーゴリ、レムからブルガーコフ、 ウェルズからシュワルツまであらゆるスペクトルを含むと述べたが、シュワルツもまた 現代ロシア・ファンタスチカにとって、大事な作家のひとりです。だっておもしろいんだもの。

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